2015/08/16

ぼくのなつやすみ



【発売】ソニー・コンピュータエンタテインメント
【開発】ソニー・コンピュータエンタテインメント、ミレニアムキッチン、アトリエドゥーブル、草薙
【発売日】2000年6月29日(PlayStation the Best版:2001年6月14日)
【定価】5,800円(PlayStation the Best版:2,800円)
【媒体】プレイステーション用CD-ROM
【ジャンル】コミュニケーション
【周辺機器】アナログコントローラ対応(振動のみ)
【受賞】2001年:第5回日本ゲーム大賞ニューウェイブ賞
【受賞】2001年:第5回日本ゲーム大賞パッケージデザイン部門賞




大人になってしまった、あなたに


【ストーリー】 

 1975年、夏。小学3年生のボクは、おじさんの家で「なつやすみ」の1ヶ月を過ごす事になりました。おじさんの家のある村は、都会育ちのボクが見た事のないものでいっぱいです。

 さあ、どんな「なつやすみ」になるのでしょうか。



【概要】
 母親が臨月を迎えたため、8月の1ヶ月間だけ田舎の叔父宅に預けられた9歳の「ボク」が体験する、古き良き時代の日本の夏を追体験するコミュニケーションゲーム。8月1日から31日までの間、舞台となる「月夜野(つきよの)」の中を自由に行動できる。キャラクターデザインは、ライオンの「キレイキレイ」やNHK『きょうの料理』でお馴染みのイラストレーター上田三根子氏。背景美術は、『サザエさん』のオープニングをはじめ多くのアニメーション美術を手がける草薙が担当。大藤史氏の歌うテーマソング「この広い野原いっぱい」は、67年に森山良子氏が発表したフォークソングのカバー曲だ。第5回日本ゲーム大賞ニューウェイブ賞及び同パッケージ部門賞受賞。第3回文化庁メディア芸術祭展示作品。

  
【ゲームシステム】
 プレイヤーは、夏休みの31日間を叔父の「空野家」で過ごす。空野家は陶芸家の「おじちゃん」、専業主婦の「おばちゃん」、中学3年生の「萌(もえ)ねえちゃん」、小学2年生の「詩(しらべ)」、それに犬の「ケン坊」の4人と1匹家族。ゲーム開始時は空野家の周囲だけだった行動範囲もプレイヤーの行動次第で徐々に広がっていくその過程が、子供の頃に探検する場所が少しずつ広くなっていった感覚に似て楽しい。ゲーム内の虫は全60種で、全て捕まえる事ができ、昆虫図鑑を作ったり、地元の子供達と仲良くなれば虫相撲で戦わせる事もできるのだ。池や川には3種類の魚も泳いでおり、これまた釣る事ができる。

 日にちと時間の概念があり、朝→昼→夕→夜と時間と共に経過するグラフィックが美しい。1日は6時に起床し、22時に就寝。ラジオ体操、朝食、夕食などの時間を除く約12時間を自由に動き回れる。朝顔の世話、昆虫採集、魚釣り、凧上げなど、何をしてもいいし、逆に何もしなくてもいい。行動によってはイベントが発生し、それによって5種類のエンディングがあるが、特にどれが正しいエンディングというわけではなく、本作はとりわけ30代以上の「大人になってしまった」ユーザーがノスタルジックに、そして気ままにのんびりと「あの頃」の夏休みを思い出しながら楽しむのが正しい姿勢と言えましょう。


【総評】
 真夏の強い陽射しに湧き上がる入道雲、辺りを埋め尽くすセミの鳴き声、心を騒がせる様な夕暮れにこぼれ落ちんばかりの星空など、美しい背景美術と音響、プレイステーションならではの3D表現によって、子供の頃に見た夏の風景が見事なまでに再現されている。90年代中盤以降、メディアがCD-ROMになった事でゲームの表現力が大幅に高まり、それまでは実現不可能だった作品が多く輩出されたが、本作もそのひとつだ。陶芸家のおじさん、昔は東京でカメラマンを目指していたおばさん、思春期真っ盛りの長女に生意気盛りの次女、そして虫や魚…大袈裟に言えば、ゲーム内に流れる時間と共にCD-ROMの中に生きていて、それに干渉するかしないかはプレイヤーの自由だ。

 ゲーム中のBGMは、ミンミンゼミやヒグラシ、スズムシなどの虫の声に川のせせらぎなどが主で、まるで環境ソフトみたいな仕様が実に心地よく、時折挿入されるジングル的な扱いの曲も地味ながら切なさを感じさせてくれる。ゲームのBGMと言うのは、テレビや映画など他のメディアとは比較にならないほど長時間耳にするため、この「曲を流さない」という仕様は英断だと思う。空野家の面々の声は、ボク役と詩役に子役を起用している他、おじちゃん役は東宝特撮ファンにはお馴染みの佐々木勝彦氏。この佐々木氏の芝居がこれまた実にいい。一方、ナレーションのダンカン氏はちょっと聞き取り難い感じなのが残念。

 舞台となる月夜野は、「北関東のどこかにある架空の田舎」という設定だが、群馬県利根郡の月夜野町ではないかと言われている(本作発売から5年後の05年に合併し、現在はみなかみ町となっている)。僕はこの昭和50年に生まれたので、ゲームではボクの弟と同い年になるんだけど、ちょうど僕がボクと同じ歳の頃、母が病気で入院して祖父母の家にしばらく預けられた事があった。そこは大分県玖珠郡の山奥で、朝はトラックの荷台に乗ってカブトムシやクワガタを探して砂糖水をクヌギの木に塗り、昼は叔母が採れ立てのトウモロコシやトマトを食べさせてくれ、数日おきの夕方になると日用品を積んだ移動販売車が来てお菓子を買ってもらった。テレビの民放はチャンネルが2つしかなかったけど、夜は花火やバーベキューをしたり、牛も飼っていたので牧場でキャンプをしたりと、あの頃の夏休みの思い出は今でも宝物だ。でも、トイレが外にあったのだけはいくつになっても慣れずに、怖くて嫌だったなぁ(笑)。

 ゲーム内では「死」や「戦争」を意識する描写も僅かではあるが存在する。それはごく平均的な、そしてごく家庭的な一家の中での描写であり、決して多くを語られる事はなく、あくまで9歳児の目線からではあるが、これらもまた子供の「なつやすみ」には必要な事であり、ただの箱庭シミュレーターになっていない大事な要素のひとつだと思う。このゲームは僕が社会人になって数年後、少し疲れていた時に友達が誕生日プレゼントとして送ってくれたんだけど、毎晩ゲーム内時間で1日ずつ進めるうちに、子供の頃を思い出して前向きな気持ちになったのだ。今やるとやったで、今度はエンディングのスタッフロールで流れる写真と、編曲も素晴らしい「この広い野原いっぱい」で思わず泣きそうになった。

 偶然とは言え、僕が子供の頃に体験した思い出と本作のシチュエーションはかなり近いけど、02年にはプレイステーション2で『ぼくのなつやすみ2 海の冒険篇』、07年にはプレイステーション3用『ぼくのなつやすみ3‐北国篇‐小さなボクの大草原』、09年にはプレイステーション・ポータブル用『ぼくのなつやすみ4 瀬戸内少年探偵団「ボクと秘密の地図」』と、実際に自分が過ごした夏休みの思い出に合わせて好みのシリーズを選んでプレイするのがいいかも。また、06年にはプレイステーション・ポータブルで本作のリメイク版『ぼくのなつやすみポータブル ムシムシ博士とてっぺん山の秘密!!』も発売されている。ほんと、掛け値なしにとてもいいゲームですよ。




Books
『ぼくのなつやすみ公式ガイドブック~空が高かったあの頃~』










【著】本田やよい、ファミ通編集部責任編集
【発売】エンターブレイン
【発売日】2000年8月4日
【定価】950円


 ファミ通編集部責任編集本の中でも、著者名が明記されている本はその編集者の愛情溢れる作りになっている場合が多く、ハズレが少ないと思っているんだけど、これもそんな1冊だ。目を三角にして真のエンディングを目指すとか虫のフルコンプリートを目指すとかそういう類のゲームではないが、ボクが書いた絵日記やおばちゃんが作ってくれる朝ごはんと晩ごはんのメニュー、上田三根子氏によるふんだんなイラストなど、読み物としても楽しめる内容。月夜野の全体地図や虫獲りのポイントマップ、昆虫図鑑にイベントカレンダーなど、ファミ通編集部責任編集本の得意とするデータ類も充実している。表紙の装丁もナイス。



(C)2000 Sony Computer Entertainment Inc. All rights reserved.

0 件のコメント:

コメントを投稿