2015/08/29

バード・ウィーク

【発売】東芝EMI
【開発】レナール
【発売日】1986年6月3日
【定価】4,900円
【媒体】ファミコン用カートリッジ
【容量】128Kbit
【ジャンル】アクション




殺意に溢れるエコロジカルな世界観


【ストーリー】 
 ここは爽やかな風がそよぐ野鳥の王国。その自然の中で、木や花を相手に暮らす鳥がいました。その鳥の名はマミー。マミーはやがて大きくなり、卵を生み、その卵が孵った時、自分が巣を作った場所が危険な場所だと初めて気付いたのでした。でも、ヒナ鳥達はお腹が空くと大きな口を開けて騒ぎます。マミーは巣から飛び出しました。そこにはマミーをやっつけようとする動物達が待ち受けています。マミーは逃げ回りながらヒナ達にエサを食べさせているうちに、キノコが生えているのを見つけました。「そうだ、あのキノコでやっつけてやろう!」。マミーはキノコをぶつけて動物達を気絶させる事を覚えました。それからというもの、花が咲き誇っている春の日も、紅葉で綺麗な秋の日も、マミーはヒナ達のエサを求めて巣から飛び出して行くのでした。


【概要】
 親鳥の「マミー」を操ってヒナ鳥達にエサを与え育てるサイドビュー形式のアクションゲーム。殺伐とした目的のゲームが主流の時代に、のどかなBGMが流れる四季折々の花が咲いたフィールドに、登場する敵キャラクターはかわいらしい動物達ばかりのエコロジカルな雰囲気が特徴。東芝EMIの広告には「ファンタジー・ファミリー・ゲーム」と謳われており、発売直後には家族3人(両親とプレイヤー自身)の合計スコアを競う「家族対抗コンテスト」も企画された。


ゲームシステム】
 マミーを操り、襲い掛かる動物達をかわしながらエサの「ムシ」を捕まえてヒナに与え、巣にいる全てのヒナが巣立てば1ラウンドクリアとなる。マミーが動物達にやられるか、ヒナが餓死してしまうとミスになる。全36ラウンドで、以降はループ。任意のラウンドのみを練習する「STUDY GAME」モードもある。







【総評】
 ほのぼのとした雰囲気とは裏腹に、難易度はファミコンソフトの中でも上位に位置するほど非常に高い。しつこく追尾して来る「ワシ」、狙いを定めスクリュードライバーのごとくクチバシで特攻を仕掛ける「キツツキ」、同様に左右から飛翔して来る「ムササビ」、対空ミサイルかと思う様なあり得ないジャンプ力で地上から眼前に塞がる「カンガルーネズミ」、急な方向転換で激突を図る「ハヤブサ」、エサと同じ様に動き回りながら追尾して来る「ハチ」など、森の動物達はどいつもこいつも殺意に溢れ、マミーを殺そうと嫌らしい動きをしてくるのだ。きっとマミーはカニのお母さんでも殺めたに違いないと思わせるほどの一致団結っぷりである。

 そして、なんと言っても極悪なまでの操作性。画面を縦横無尽に移動する敵に対し、マミーは上下左右にしか移動できない。要は斜め入力ができないのだ。ほとんどの敵が斜め方向から迫って来るため、回避が相当に困難などころかハナから無理な場合もある。加えて、巣や地面に着地する際には慣性が邪魔をしてしっかり地に足を付ける事さえ難しい有様だ。地面には唯一の武器「キノコ」が生えているが、これも敵を倒す事まではできず、その場で相手の動きを一定時間止めるだけで、止まっている間も当たり判定は有効なため、接触すれば当然ミスになるコンチタビナシなヘッポコキノコだ。また、ラウンド24までは巣が安全地帯(敵からの当たり判定が無効)となっているが、前述の様になかなか着地がしにくく、退避できずにマミー死亡orエサを与えられずにヒナ死亡という痛ましいケースが多発。更にハチは動き次第でミス不可避な状況を作り出すので、テクニックだけではどうにもならない運の要素も少なくない。ふざけんなバカヤロー!恐らくゲーム開始から10分であなたもこう叫ぶに違いない。世界観とアイデアは悪くないのに、難易度調整がデタラメな、ある意味でヒジョーにレトロゲームらしいゲームである。本作をプレイして以降、異業種のメーカーが出すゲームは警戒してしばらく手を出さなかった。

 ファミコンには異業種からも多くのメーカーがサードパーティに参入したが、中でもレコード会社は最も多い異業種メーカーだった。東芝EMIの『パチコン』とポニーキャニオンの『おにゃんこタウン』が共に85年11月21日に発売されると、バップ、ビクター音楽産業(現JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント)、CBS・ソニーレコード(現ソニー・ミュージックエンタテインメント)、EPIC・ソニー(現エピックレコードジャパン)、キングレコード、メルダック(現徳間ジャパンコミュニケーションズ)の8社が次々に参入。ビクター音産やキングレコードが佳作を発表する一方、他のメーカーは主に定価で買った事を後悔するゲームをどんどん量産していった。とは言え、下手なゲームメーカーよりも一応キャリアは積んでいるからか、スーパーファミコン時代になるとEPIC・ソニーの『ジェリーボーイ』や『ソルスティスII』など、良作も見られる様にはなった。また、CBS・ソニーとEPIC・ソニーの参入は、後にプレイステーションを発売するソニー・コンピュータエンタテインメントが設立される遠因にもなったと思うとちょっと感慨深いものがあるよーなないよーな。

 そんな中での東芝EMIの立ち位置はと言うと、これがなかなかビミョーなのだ。第1弾ソフトがファミコン初のパチンコゲーム『パチコン』で、次はパソコンの名作RPGをアレンジした『ハイドライド・スペシャル』、そして本作へという流れを見ると、ファミコンのメインターゲットである小中学生を避け、比較的高学年層やファミリー層をターゲットにしていたのは分からんでもないが、どれもこれもビミョーだった。『ハイドライド・スペシャル』は2ヶ月後に発売された『ドラゴンクエスト』(エニックス)の影に完全に隠れてしまい、本作も狙いこそ悪くないものの肝心の操作性で全てを駄目にしている。同社はその後もニッチな層をピンポイントで狙い撃ちしようとするが、移植作の『サンダースピリッツ』や『サイバリオン』でさえ微妙に的を外し、なんというか、頑張ってるのは分かるんだけどいつも空回りしてしまう人って感じなのだった。

 結局、99年にプレイステーションで発売した『キャプテン・ラブ』を最後にゲーム業界から撤退し、13年にユニバーサル・ミュージックに吸収合併されてしまった。一方、ゲーム開発部門のメンバーは99年にハムスターを設立。東芝EMIから発売された全作品の権利元となり、以降もジャレコや日本物産、ヒューマンなどの倒産したゲームメーカーの作品権利も積極的に取得。また、80年代のアーケードゲームを廉価でプレイステーション2に移植した『オレたちゲーセン族』シリーズをリリース。バーチャルコンソールやゲームアーカイブスなどのダウンロード販売を含め、今ではレトロゲームの復刻には欠かせないメーカーの1社として、業界内で重要な立ち位置を確立した。めでたし、めでたし。



(C)1986 TOSHIBA EMI / LENAR

0 件のコメント:

コメントを投稿